お知らせ

65歳までの雇用確保は“制度の気づき”のチャンス──高年齢者雇用安定法改正と実務対応(2025.10.28)

社労士とお客様をつなぐテーマを発信してまいります。
今回は「制度の気づきシリーズ」の第2回として、高年齢者雇用安定法の改正と実務対応を取り上げます。

1)制度改正の背景と告示内容

2025年4月、高年齢者雇用安定法の経過措置が終了し、希望者全員を65歳まで雇用する措置が義務化されました。
これにより、企業は「定年延長」「継続雇用制度」「定年廃止」のいずれかを選択し、制度として整備する必要があります。

2)現場に求められる実務対応

この改正により、企業には以下のような対応が求められます:

  • 就業規則の改定(定年規定・継続雇用制度の明記)

  • 賃金制度の見直し(65歳までの賃金カーブ設計)

  • 評価制度・役職制度との整合性確保

  • 労使協議の実施と納得形成

特に、短時間勤務のみの提示は原則認められず、複数の勤務形態を用意する必要がある点は注意が必要です。

3) 助成金との連動と制度整備の順序

制度整備に取り組む企業には、65歳超雇用推進助成金などの支援制度も活用可能です。
ただし、助成金を取るために制度を整えるのではなく、制度を整えておくことで助成金が活用 できるという順序が重要です。
この順序を理解することで、現場に納得感ある制度運用が可能になります。

4) 社労士の役割と今後への備え

私たち社労士は、単なる申請代行者ではなく、制度と現場の間をつなぐ“翻訳者”としての役割が求められています。
高年齢者の雇用は、制度上の義務として「負担」と捉えられがちですが、見方を変えれば、経験という“無形資産”を活かす制度整備のきっかけでもあります。

実際には、定年前と同じ業務を担いながら、再雇用後の賃金が3〜4割減となるケースが多く、本人のモチベーションや企業側の活用意識に課題が残るのが現状です。

企業によっては、後進育成やOJTの担い手としての役割を任せることで、本人の負担感が少なく、経験を活かしやすい設計ができている例もあります。
一方で、クレーム対応・品質管理・安全衛生管理など、責任が重くストレスの多い業務への配置転換では、「定年前と同じ仕事なのに賃金は大幅減」という不満が生じやすく、制度整備の目的が形骸化するリスクもあります。

こうした背景を踏まえると、評価制度の見直しにおいても、「成果」だけでなく「貢献」や「支援」を評価軸に加えることは理想論に留まらず、処遇設計とセットで検討する必要があります。
ただし、企業側にとっては「評価軸を増やす=賃金を上げる」というイメージが強く、制度設計の段階で納得感ある“役割と報酬のバランス”をどう描くかが鍵となります。

「制度の気づき」を「制度の備え」へ──
高年齢者雇用の制度整備を通じて、企業と働く人の未来を支える一歩を、私たち社労士が共に歩んでまいります。

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